レコードに書いてある名前で勝手に想像する元持ち主の人生 (MC5編)

よくレコードに名前とか書いてありますよね。
レコードを買う方だったらあまり嬉しくないですよね。
そりゃ「Mike」なんて書かれてたら、俺は「Mike」じゃねえ!って思いますからね。
日本人だとまあ仕方ないかと思ってそのままにしておきますが、アメリカ人だったらその文字をマジックで消してそして更に自分の名前を書いたりしますから、私のようなレコードを商売にしている人にとってはたまりません。
だって汚くなるので更に価格も安くなるといういいことなしの状態。まあ買わなければいいことなんですが。

名前の落書きで元の持ち主の人生はこんなかな?と思いながら検品していますというのを書いてみました。

今回入荷したMC5の「Kick Out The Jams」。

当店がアメリカ、デトロイト近郊で買い付けたときには↓感じでした。



口元にシールが貼ってあります。


シールを剥がすとTomと言う名前が出てきました。



これは元々の書き込みの様にTomのものだったと思います。
このアルバムの持ち主ですから多分日頃の生活に鬱屈しているブルーカラーの若い白人の青年だったのでしょう。
音楽好きの友人もそれなりに多かったのだと思います。
名前を書く理由はパーティーに持って行った時に人の物と間違えないようにするため、もし1人で聴くならジャケットに名前を書いたりしません。

彼が購入した時期はアルバムが発売された当時ではありませんでした。
発売されたときまだ彼はこのアルバムを知らなかったのか、それとも買いたかったけどお金がなかったのかはわかりません。どちらにしろ彼が買ったのは発売から少し後になってからです。
1stプレスはカバーの内側にライナーが記載されていますが、2ndプレスからはカバー内側のライナーノーツは削除されます。このアルバムはライナーノーツの記載がないので2ndプレスということがわかります。
彼がこのアルバムを買った理由は雑誌の批評で見て気になったのか、それとも友人から教えられたのか、それはわかりません。

でもこんな風だったら面白いかな思います。
昼間の仕事がうまくいかなくて嫌な気分でむしゃくしゃしていた。
すぐにでもバーに駆け込んでビールを浴びるように飲んで憂さを晴らしたい気分だった。
一緒に働いていた友人が「今日、MC5のライブがあるんだよ!すげえいいから行ってみないか!ホント最高だぜ!」、 彼は言います「本当かよ!」
それほど気乗りしなかったTomもそこまで言うんなら行ってみるかとライブ会場に向かいます。
ライブ会場は溢れんばかりの人、人、そして人。
それほど期待していなかった彼も彼らのライブにぶっ飛ばされました。



ライブ翌日、近所のレコード店で買おうとしますが在庫がありません。
2件目にいっても、3件目にいっても在庫がありません。
そう当時場所によってはMC5のアルバムは子供に悪影響を及ぼすからという理由で扱っていなかったのです。
そしてロックの音楽が好きそうなお兄さんがやっている小さな店でやっと彼は1枚見つけました。「やった〜!」という嬉々としたその嬉しそうな姿。
そしてこのレコードも何度もパーティーに持って行き、先々で「これ最高だよ!」と自慢しました。

あるときパーティーでWendyという娘に会います。
MC5を聴かせたらいたく感激して「これ凄いよ!ホント凄いよ!」の連発。
彼とはすぐに意気投合します。MC5が気に入るくらいですからかなりのお転婆さんです。
彼は「家にもっといいレコードたくさんあるぜ」と言って彼女を自宅に招待しました。
たぶん彼の家には彼女の気に入りそうな「The Stooges」などのデトロイト・パンクもあったに違いありません。
当然のことながら、気のあった二人は一緒に住み始めます。
二人は何度もこのアルバムを聴いたと思います。
そして二人はたまに「別れる、別れない」の喧嘩もしながらも、遂に結婚します。
彼女は彼に「ねえ、2人の持ってるアルバムを全部、自分たちの!っていうことで一緒にしよ」と言うのです。
彼の答えは「いいよ」
でも彼は多分本当はそうしたくなかったんだと思います。
アルバムに直接書いてある文字は彼自身が書いた「Tom」、でもステッカーに書かれている文字は奥さんが書いたもの。
彼女は喜んで近所のレコード店にいって写真に写っているステッカーを買ってきました。
嬉しそうに「Tom」と書かれた文字の上に「Tom&Wendy」のシールを貼っていきます。その横で正直納得がいかず、心にしこりを残したままの彼が彼女を見ています。

今、手元にこのレコードがあると言うことは彼らはこの音楽に興味がなくなって売ってしまったのか、それとも別れてしまったのか…病気や事故で亡くなってしまったのか…わかりませんがこのアルバムがたどってきた経緯をいろいろ想像してしまいます。

「くだらねえ〜、ようここまで考えるわ、バカだなあ」と是非お笑い頂ければ嬉しいです。
下のLPを買ってくれたらもっと嬉しいです。


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