「いい音楽なら売れる」ということについて考えてみました (リイシューにまつわるトラブル 2)


今回は引き続きリイシュー製作のお話。
儲からない…(リイシューにまつわるトラブル Vol.1)』の続き、「いい音楽だから売れる」ってどういうことなの?を書きたいと思います。

ブラジル盤のリイシューを買われた方はご存じかと思いますが、ブラジル盤のリイシューで出来の悪いものはそれなりに多く、これって「ブートじゃないの…」みたいなものもありました。

ですので私共がパートナーにお願いしたことはクオリティです。
最高の音質は求めることはできませんがある程度の音質とカバー・ジャケットのクオリティこれは必須でした。
私共が販売するのですから買って頂いた方に満足して頂けるクオリティを維持したかったし、「あのサボテン・レコードで売っているリイシュー酷いよね」とはどうしても言われたく無かったのです。

Claudiaの『Passaro Emigrante』をリイシューした後
同じくCBS製作でDom Salvadorの「Som, Sangue E Raca」、EMI製作でAntonio Adolfo E A Brazucaを製作しました。
どのアルバムも人気盤でしたので販売はそれほど難しいものではありませんでした。
クオリティーもCBS、EMI製作だけあって品質も良好でした。

その後レ−ベルCIDと契約することになります。
名曲「Bananeira」収録のJoao Donatoが参加したEmilio Santiagoの1stアルバムなどを発売したブラジル音楽ファンにはちょっと気になるレーベルの一つです。

私はちょっとしたチャレンジをしたくなりました。
ほとんどの方に知られていないけど素晴らしいと思われるものをリイシューしたいという気持ちがむくむく湧いてきたのです。
そのアルバムは『Orquestra Namorados Da TV』
LPは数枚売ったことがあるので内容の素晴らしさを知っていました。
グルービーな「Sex Appeal」、「Shirley Sexy」等々。
AzymuthのRoberto Bertramiのアレンジも相まってオリジナルを凌駕するカバー集でした。
2002年当時の雰囲気にバッチリあった内容、これなら絶対売れる、売れない訳がないと思っていました。

そう製作してきたものが順調に売れていたことから慢心していたことは否定できません。
そこにちょっとした落とし穴があったのでしょう。

CD、LPとも問題無く出来上がってきたのですがカバーのクオリティが低い。
パートナーに聞くと素材がCIDには残っていないため、レコードのカバーを転写して製作、傷みがあった部分はうまく隠したというのですが日本人の私には決して満足できるものではありませんでした。
いままで問題無かったから、たぶん大丈夫だとチェックしなかった自分が馬鹿でした。
だからといってカバーが綺麗なものが出てくるまで待っている時間もないし、再度製作する予算もありません。
やはり売り時にこそ売りたい。

販売店にインフォメーションを流し注文を取りました。
知名度がないため400枚くらいの注文が初回、カバーのクオリティが低いので追加の注文は厳しいだろうと思っていたのですが…
初回で頂いた注文はたったの合計72枚。
この時になって自分の馬鹿さ加減を痛感するのです。
「知られていない」というのはこういう事か!
このままでは大赤字、さすがにまずいと思いCD-Rをせっせと作り販売店に送付、なんとかお願いをしてやっと400枚弱の注文を頂きました。
その後は好調に売れて再プレス、製作したリイシューの中でもLPは特に売れた1枚でした。
(CDは若干数残っていますので買って頂けると嬉しいです↓)

そんなことから分かったことといえば
私共が考えるほどパッケージのクオリティはお客様にとっては大事ではない。やはり内容なんです。
(でもパッケージは大事にしないとダメだと思います)
「いい音楽」というものが自分だけ、自分の周りだけが思っているのか、それなりに多くの方がいい音楽と感じられるのかが分からないと失敗する。
レコード店をやっていてよかったと思う事はレコードを購入してくれるお客さんの反応からお客さんが今何を求めているのかというような事がそれなりに分かるようになったということでしょうか。
「いい音楽」だとしても販促をきっちりやらないと当然ながら売れない。内容の良さを理解して頂けた販売店の方々がこのレコードをプッシュしてくれたからこそよく売れたのだと思います。
そう何もしなければオーダーはたったの72枚だったのですから。
プッシュして頂いた販売店の皆様、お買い上げ頂いたお客様ありがとうございます。

たまにお客様から「もうリイシューやらないのですか?」と聞かれますが
その予定はありません。
そう今、『Orquestra Namorados Da TV』をリイシューしたらどれくらい売れると思いますか?
私共が考えるには300枚も売れない、下手をしたら200枚に届かないのではないかと思います。
悲しいことですがそんな時代です。
そう「いい音楽」はその時代によっても違うんですよね。

もし好きなCDを多く製作するお気に入りのレコード会社があるのであれば、できるだけそのレコード会社が製作したタイトルを買ってください。
そのことがそのレコード会社を潤しますし、そのレコード会社が更にあなたを豊かにするCDを製作するのではないかと思います。

次回は『もう終わりにしたい (リイシューにまつわるトラブル 3)』です。
以前ブラジル人と一緒に作ったリイシューのこと、第3弾を予定しています。

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当時製作したタイトルまだ若干数残っています。
どのアルバムも素晴らしいので気になる方は是非!
買っていただけると嬉しいです。


Celeste(セレスチ)/Cinco E Triste Da Manha

白眉、Djavanのメロウ グルーブ「Serrado」のカバー、「Amor E Tres」他収録の名盤。
試聴:Serrado

Antonio Adolfo E A Brazuca(アントニオ アドルフォ)/Same Title
Antonio Adolfo率いるA Brazucaの2ndアルバム。ブラジリアン・ソフト・ロックの名盤。クラブ・クラシックの「Transamazonica」、コーラスとエレピが織りなすハーモニーも夢見心地な「Claudia」、他収録。
試聴:Transamazonica

Orquestra Namorados Da TV(オルケストラ ナモラードス ダ ティーヴィー)/As Maximas De Novela
AzymuthのRoberto Bertramiがアレンジで参加したことでも知られるCidレーベルが製作したテレビ・ドラマ・カバー曲集。オリジナルを超えると言われる方も多いグルービーな「Sex Appeal」、「Shirley Sexy」他収録。
試聴:Sex Appeal / Shirley Sexy

Cry Babies(クライ ベイビース)/Same Title
Marva Whitneyの「It’s My Thing」、Kool And The Gangの「Kool And The Gang」、ブレイク入り「Hey Blood」のカバーなどを含むブラジリアン レア グルーブ傑作。
試聴: It’s My Thing