もう終わりにしたい(リイシューにまつわるトラブル 3)


前回よりかなり時間が空いてしまいましたが引き続きリイシュー製作のお話。
「いい音楽なら売れる」ということについて考えてみました (リイシューにまつわるトラブル 2)』の続き、「もう終わりにしたい(リイシューにまつわるトラブル 3)」です。

それなりに順調に進んできたリイシュー製作でしたが、CIDレーベルとの契約ではマスターの問題で発売できなくなった物、製作完了したにもかかわらず版権の問題で発売できなくなった物もあり、そのうちレコードの製作もできない事になりました。
さすがにこの連続するトラブルにはうんざりしました。

ブラジルのRCAにもリイシュー製作の依頼をしたのですが彼らの最低ロットは2万枚からと到底不可能な数字をあげてきたので当然のことながらお断りしました。
いったいどんなアーティストのリイシューだったら2万枚も売れるのでしょうか。
最後には最低のロットは5千枚まで下がったのですが、まあそれでも売り切ることは不可能な数字です。
後にRCAが製作したリイシューは1000枚~と聞きましたので『どれだけふっかけているんだよ!』と笑ってしまいましたが…

パートナーはAntonio Adolfoを製作したEMIとCDのみ製作、LP製作は無しという再契約を結びました。
既にちょこちょこしたトラブルによって面倒臭いと思っていた私にLPレコード抜きでの製作はさらにやる気を損なわせました。
LPは扱っている店舗も少なかったので当店からすべてのLPを出荷していました。
しかしCDは卸店などを挟むため掛け率を更に落とすためそれほど利益が上がっていませんでした。CDとLPを合わせて販売しているからこそそれなりの利益が生み出せましたが、CDだけでは仕事に見合う利益が生み出せそうにありませんでした。
うんざりしていた私はパートナーにもうこの仕事はやりたくないと伝えました。
「今回で終了でいいから今回だけどうにかしてくれ、頼む!」
そう言われると仕方ない、今回だけということで引き受けました。

CDを自分のところでコツコツ売る事も考えたのですが引き受ける枚数が多すぎました。
地道に売って売れるような枚数ではありませんでした。
一括で購入してくれるところはどこのメーカーだろう。そう帯付の国内盤仕様で販売してくれるのはどこかなと考えたのです。

もう既にOs Tres Moraesと70年代のJongo Trioの発売は決めていました。
当時を知る方ならご存じの様に持っていなければ誰もが欲しくなる人気盤の1枚、あっ! 2枚。
これを提示して相手の会社に売り込めばなんとかなるのではないかと考えました。

そういうのをやってくれそうなところはまあA社かB社。

お店にも来ていたお客さんがA社で働いていたのでお願いしました。
とんとん拍子に話は進み、最終的にはA社の希望タイトルも含めて6タイトルを発売することになりました。

そうするとただ単に入ってきたCDを彼らの工場に送るという作業を繰り返すだけです。
EMIだけあって納期は守るし、商品にも問題はない。
これは楽、数をチェックして送付するだけ、ただしおもしろみは全くない。
そして契約枚数を出荷して終了。

納品書を確認したらLuiz Carlos Vinhas/No Flag、Trio Esperanca、Evaの3タイトルも出荷したことになっているのですが
本当に出荷したのかなと思うくらい憶えていない。
歳のせいかもしれませんが…

暫くして彼からまたCDをリイシューするからお願いできないかと連絡がありました。
そんなことになるだろうとは思いましたが「申し訳ないけど、もうやりたくない」とメールをしました。
「分かった、なら他のディストリビューターを紹介してくれないか」
「トラブルもそれなりにあったので自分からディストリビューターになってくれそうな会社には薦めることはできない。でも○○や◇◇だったら受けてくれるかもしれないから連絡してみれば」と教えました。
ほどなく○○から彼が製作したCDが出されていました。
発売できて「ほっ」とした気持ちとは裏腹に○○がトラブルに巻き込まれないといいなと思ったことを憶えています。

というわけでリイシュー製作をやめ、普通の中古レコード店に戻りました。

できるかなと思いながら始めたリイシュー製作でした。赤字もなく順調に利益も出せて良い経験になりました。
まあトラブルとレコードのリイシューができないことで面倒臭くてやめちゃったんですけどね。

もしこれを読まれた方でリイシューを作ったりする機会があったら是非やってみて下さい。
そりゃ利益は保証できませんけど売るのって楽しいですよ。

———————————————————————-

当時製作したタイトルまだ若干数残っています。
どのアルバムも素晴らしいので気になる方は是非!
買っていただけると嬉しいです。


Celeste(セレスチ)/Cinco E Triste Da Manha

白眉、Djavanのメロウ グルーブ「Serrado」のカバー、「Amor E Tres」他収録の名盤。
試聴:Serrado

Antonio Adolfo E A Brazuca(アントニオ アドルフォ)/Same Title
Antonio Adolfo率いるA Brazucaの2ndアルバム。ブラジリアン・ソフト・ロックの名盤。クラブ・クラシックの「Transamazonica」、コーラスとエレピが織りなすハーモニーも夢見心地な「Claudia」、他収録。
試聴:Transamazonica

Orquestra Namorados Da TV(オルケストラ ナモラードス ダ ティーヴィー)/As Maximas De Novela
AzymuthのRoberto Bertramiがアレンジで参加したことでも知られるCidレーベルが製作したテレビ・ドラマ・カバー曲集。オリジナルを超えると言われる方も多いグルービーな「Sex Appeal」、「Shirley Sexy」他収録。
試聴:Sex Appeal / Shirley Sexy

Cry Babies(クライ ベイビース)/Same Title
Marva Whitneyの「It’s My Thing」、Kool And The Gangの「Kool And The Gang」、ブレイク入り「Hey Blood」のカバーなどを含むブラジリアン レア グルーブ傑作。
試聴: It’s My Thing

次回は『著作権の問題(リイシューにまつわるトラブル 4)』です。
ブラジル盤しか売れていなかったときのサボテン・レコードのことを書きたいと思います。

サボテン・レコードのネット・ショップはこちらから
ブログ 『レコード店を考えてみる』 はこちらから